たのしい水辺

伊藤 秀男 展

2008.4.12(土)- 29(火)



微睡んでいるような蛙、かっと眼を見開いた鯉、角度によって表情が変わる、絵から飛び出したようなイキモノたち。それもその筈。描いたものが気にいらず、くしゃり丸めて放り投げたその偶然から、新たな命を授けられたのだから。二次元から三次元に起されたとき発生する、整いようのない面白さ。

平面でも同様、作為や企みとは無縁の奔放さが輝く。ざっくと描かれた、睡蓮の咲く池で水草とお日様の光と戯れるように泳ぐナマズ数匹。一瞬、会話が聞こえてきたような気がして驚いた。そう、伊藤秀男のタブローからは、常にざわめきが、声が聞こえてくる。これまで30冊以上の絵本を手がけてきた、そのこととも無関係ではないだろう。すべてが生きている! ライブ感、生活感に満ち溢れているのだ。台湾の温泉パワフルな客たちの話し声。ネパールの川では青年が牛を洗いながら話しかける。池のほとり散髪する親子の会話…「川の傍で産まれ育ったから、水のある風景をずっと描いているのかも」村に一軒のよろず屋を営んでいた生家、川からは荷が運ばれてきたという。遊びの場であり、生活の場である水辺。新作絵本を手がけている最中のアトリエ、卓上に並べられた絵具皿の中にも、彼が子どもだった頃の日本の自然の匂い、夜の川辺の色合いが残されていた。

“水辺”をテーマに設けた今展、飄々とした風体のオブジェから、パッと色が咲いたような鮮やかな画面から聞こえくるものにぜひ耳を傾けにいらしてください。