空へと還る

笹谷 晃生 展

2008.6.7(土)- 22(日)



戸外から鳥の声、乳白の空、軒を打ちはじめる優しい雨、遠くを車が過ぎる音・・・笹谷晃生の作品には、しっとり湿りを帯びた空気がよく似合う。植物園の温室のイメージから生まれたという「湿度について」は、空気中の水分と関わりながら緑青を噴き変化してゆく、金属に対する思いの昇華。素材と造形が織り成す心地よい緊張感に、深い溜息をついてしまう。 玩具が、普及しはじめたプラスティックに次々と取って変わった子ども時代。そのニセモノ感に辟易した。近所の射撃訓練場に忍び込み鉛玉を拾ってきては、自分が満足のいく遊び道具をこしらえていた記憶、それが金属にこだわる彼の物づくりの原点だという。質感、重量感、鈍い輝きこそが本物の証だった。

しかし、いま私たちの目に映る作品は、驚くほど軽やかだ。ずっと追い続けてきた植物の有機的フォルム。それらはまた羽根のようでもあり、古きよき時代に空を駆けたプロペラのようにもみえる。上へと指向するベクトル、ふわり飛び立つ真際のものたち。そしてすべては、擦り切れ綻び、解け消え亡くなり素中へと還る。空へと還るのだ。金属ですら例外でなく、永い永い時を経て逝く。そのものたちが、やがて空へと還るための装置とも思え、尚さら、柔らかでシンとした心持ちになる。

この地方では久方ぶりの笹谷晃生展です。雨の季節に寄り添うような、慎ましやかな叙情に充ちた世界へと、どうぞ足をお運びください。