時の旅・風の景 II

杉浦 誠 展

2008.11.1(土)- 16(日)



正午の強い日差し、輪郭を縁どり足元に落ちる影。ザァと砂埃を巻き上げ通り過ぎた後は、熱く乾いた空気がまた静かに建物のあちこちを満たしてゆく。人の気配が見当たらない。ただ木が幽かに、さきほどの風のざわめきを留めている以外は…。

「自分の物語はいらないから」そう彼は言う。人の気配を無くし、余分なイメージを取り去ることで、観る人に自由に楽しんでもらいたいのだ、と。委ねられたわたし達は、排されて尚、そこに漂う記憶の欠片、残り香を頼りに物語の続きを紡ぐ。遺跡に迷い込んだ旅人、空を駆ける翼持つもの、棚田を見下ろす銀色の月、軽く音たて開く華、或いは、地中に眠る何者かの思い出となって。そうしていつしか自分も、気配そのものになってゆく。

マイナスの作業で、プラスの世界を生み出す木彫。杉浦の作品の殆どは一木彫で作られている。例えば、「レリーフ -箱-」。ぽっかり口を開く穴を覗けば深淵に立った時のよう、歪んだ空間のマジックに眩み墜落してゆきそうになる。薄く薄く極限まで厚みを削られ出来上がった四角。これは言うならば、蓮池や灯台といった風景と同じく、手にした一塊の木の中に彼が“驚き”を彫り当てたのかもしれない。

イメージは区切られることなく繋がってゆく。時空や理、イマココを超えて。深まる秋、穏やかでこっくりとした空気に誘われて、なにものにもなれる果てない旅へおでかけください。