記憶の成層圏III

国島 征二 展

2009.11.14(土)- 29(日)



草に降りた朝露が零れる音さえも、耳を澄ませば聴こえそうな朝。山中のアトリエは、下界よりはるかに混じり気の少ない清廉な空気で満ちている。起き上がり、深呼吸、ひとつ。煙草に火をつける。珈琲を飲む。そんなメ日常モその延長線上にものづくりはある。

今、いいんですよ」にこやかに語る。この年になって身の回りに必要なものだけ残ってきたような気がする「ようやく俺の人生だ」と。つくることの必然。展覧会があるからつくるのではなく、つくり続けることが人生であり、日常の積み重ねが作品であり、またその一欠けずつの集まりが国島征二そのものなのだ。

驚くことに、この半年余りで300枚以上ものドローイングを残したという。一つの言葉を見つけるのにある種の時間と量を要さなければならないのは、不器用なものつくりの質だと笑う。しかし、手探りで繰り返し繰り返し、やっと見えるものもある。「つくることは己への問いかけでしかない。だから公の場に曝された時、言葉足らずの言葉で補足するような真似だけはしたくない」ずっと、つくり続けてきた作家としてのプライドが垣間見える瞬間。

何ら変化がないように思われる日常も、目に見えぬほどの速度で移ろう時の層。一枚ずつ色づく葉は、やがて頂きから麓までを燃えるように彩る。そうしていつしか、すっかり枝だけになった頃、舞う雪の一片一片が辺りを白く包むだろう。巡りながら、昨日でも明日でも成し得ることないメ今日モの作品たち。深まる秋のひと時、凛としたフォルムに秘められたなにものかへと、ぜひ思いを馳せにいらしてください。