取り巻く空気に、未だ夏の名残りが色濃く感じられた9月。アトリエでロクロに向かう伊藤慶二の姿があった。キースへリングのイラストが大きく入ったTシャツに、半ズボン、草履、夏休みの子どものようなスタイルに思わず頬が緩んだ。
「今回は新作と、これまで余りみせる機会のなかった20年~30年ほど前の作品を並べてみたいと思うんだ」と、個展のプランを口にする。新作とは、やきものと漆による、これまで以上に絵画的要素の強い作品群を指していた。
厳密に言えば、用いるのは漆ではなく「カシュー」と呼ばれる代用品だ。やきものと漆の組み合わせは縄文時代からあり、機会があれば試みたいと思っていたが、いかんせん漆に弱い体質がそれを邪魔していた。そのような中、カシューの存在を知り、今回「朱」をはじめとする新作シリーズが生まれたという訳だ。
まるで自身の立体作品を平面にしたような意匠。具象ではないのだが、それらを眺めていると、古墳や風景、地図のようにもみえる。そうして、「新しい器の文様を暗示させるような試みをしたい」との作家の言葉に頷く。そこには、意欲的に挑戦し続ける「まだまだやれる」という、静かにしかし強かに燃焼する魂があった。